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森山大道のこと ~ その1 無知と先入観
森山大道のこと ~ その1 無知と先入観_c0123210_1505124.jpg「森山大道を意識しているの?」
僕の写真を直に見た人が多く口にする言葉だ。別のバージョンでは「森山病?」とか「やっぱアレ・ブレ・ボケ?」というのもある。
最近はいちいち説明することが面倒になってきて「うん、そうそう」などと適当に答えることも増えてきたが、実のところ僕は森山氏を意識したことなど一度もない。写真的世間では相当に恥ずかしいことらしいが、僕は3年ほど前まで森山大道という人間がいることすら知らなかったのだ。

写真家そのものについても僕の無知さは呆れるほどで、写真家と言われて思い浮かぶのは浅井慎平に篠山紀信ぐらいのものだった。もっとも篠山紀信を知っているのは南沙織の旦那という理由だったし、誰に吹き込まれたのか覚えていないのだけれど「ロバート・キャパというのは実在の人物ではなくて、マグナムという写真家グループのメンバーが匿名で写真を発表する際の共有のペンネームなのだ」という奇妙な伝説を、僕はかなり長いこと信じていた。荒木経惟にいたっては林家ペーと同じく、写真好きの芸人だと思っていたというていたらくである。

僕はフッサールの現象学からハイデッガーなど解釈学、さらにはデリダの脱構築理論を表面的に通り過ぎる過程でロラン・バルトの「明るい部屋」と偶然出くわした。それまでよくありがちなただきれいな写真を撮ることだけ ―― ある意味では単純な写真に終始していた ―― だった「写真」というものと観念的・理論的に向かい合うことになった。それがいま写真を趣味にすることになった最大の理由である。
ロラン・バルトからスーザン・ソンタグの「写真論」へと続き、それまでに得ていたまるっきり違う分野とカメラに関する知識だけを使って、僕は自分なりの「写真論」(大げさな言い方だ)を組み立てることになった。その材料の中に森山大道はなかったのだ。

森山大道という文字列を最初に目にしたのは3年前のことだ。場所は新宿のブックファーストだった。
平積みされた写真集の中に「森山大道写真集」という書店員の手書きポップが立っていたのを目にしたのが最初だった。
普通に考えれば「おお、森山大道の新作が出たのか」と思うはずだ。ところが僕はそれが人の名前だとは思わなかった。
その頃、僕は台湾に行ってみようかと考えていて、旅行ガイドをあちこちで見ていた。そんな先入観があって「森山大道」という文字列を何の根拠もなく台湾とか中国にありそうな「○○北路」みたいな地名だと思いこんでしまったのである。しかもそのことに何の疑問も感じずに「手書きのポップを立ててまで台湾の写真集をプッシュするなんて、ホントに台湾ブームなんだなあ」などと思っていたのである。

友人に「森山大道って写真家って有名なの?」と尋ねつつ、そのことを話したら、一旦は思いっきりドン引きされ、その次には津波のごとく罵倒されまくったことは言うまでもない。
by ash1kg | 2007-06-11 01:53 | 寫眞昔日談
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影と光、記憶と個人的な記録
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