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放下
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炎熱地獄の1週間を、夏休みを先延ばしして過ごした今週、珍しく夜半までTVを見る日が続いていた。
五木寛之が仏教をテーマに世界を巡るというNHKのハイビジョン特集だ。

日本の大多数がそうであるように、僕もまたありがちな「葬式仏教」徒なので、宗派がどうとか教義がどうということには
まるっきり興味が無いのだが、日常の喧騒から離れるために僕はここ数年、夏休みになると義理の叔父が住職を務める
禅寺で寺男の真似事をして過ごしている。
今年は叔父の寺に行けなかった分、TVを見ているというわけだ。

有名な禅語に「放下」というものがある。煩悩を捨て去り、無我や悟りを得たら、次はその無我や悟りを捨て去れ。
全てを捨て去ったら、次には己自身を捨て去れ、と簡単に言えばそういうものである(のだそうだ)。
TVを見ているあいだに、禅堂で叔父から教えて貰った放下の話を思い出していた。

アレコレとカメラを選ぼうとする欲を捨て、良い写真を撮ろうとする欲を捨て、構図や光の当たり方を気にする心を捨て、
ただ撮ったらどうなるのだろう。
ただ目の前にある光景を手にしたカメラで撮る。
写して残そうという欲を捨て去り、ただ見る。
「世界はすでに写し取られた存在だ」と語った森山大道の言葉にも連なりそうな話である。

禅宗の住職でありながら、なかなかの趣味人であり、写真を撮る趣味はないにもかかわらず叔母に内緒で
ニコンのSPを隠し持つ、放下とははなはだ大きな隔たりのある叔父が僕の写真を見たらなんと言うだろうか。
ついさっき、僕は叔父に電話をかけ、秋になって時間が取れるようになったら写真を持って行くよ、と伝えた。
叔父は「どうせオマエの写真は欲の固まりなんだろう?」と笑った。

秋には作ったプリントを山ほど抱えて叔父の寺を訪ねようと思う。大量の写真を目にしたら、
すぐさま叔父はこう言って笑うはずだ。
「全然『放下』などしておらんじゃないか」と。

それでも僕は、叔父に自分の写真をできるだけ多く見てもらいたいと思っている。

@恵比寿ガーデンプレイス 14:25
by ash1kg | 2007-08-17 23:01 | 写真日記
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影と光、記憶と個人的な記録
by ash1kg
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