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栃木の奥で寺を営む叔父(正確には父の従弟であるから叔父ではないが便宜上)が 珍しく出てくるというので、日曜日の朝から早起きして両親のところに行ってきた。 さして広くもない居間に10人近くの親戚連中が集まり、ガヤガヤと世間話をしていると、 叔父が思い出したように鞄の中から手帳を取りだし、ページを1枚破り取った。 「おい、例のヤツ、考えてきたぞ」 叔父が差し出した手帳のページには書き損じをグシャグシャと消したあとがいくつもあり、 残り少なくなった余白の一角に、丸で囲まれた「歩周」という文字があった。 「男は40過ぎたら通名や雅号の一つでも持っていなければイカン」というのが叔父の信条で、 これまでにも「生きている間は号として使え、死んだら戒名に使え」と、なんとも強引かつ 一方的に年上の従兄弟連中にも名前を押しつけてきている。僕が従兄たちと違うのは、 僕が望んで考えてもらったという点だ。 ときどき「影響を受けたカメラマンは誰?」みたいなことを聞かれることがあって―― その 大半は「森山大道」とか「ロバート・フランク」いう答えを待たれているように感じるのだが ―― 、 そんな質問を受けたときには、僕は「北斎と広重」と答えるようにしている。レンブラントも ミレーもさんざん見たけれど、眺めた時間数が影響と比例するなら広重と北斎に並ぶ者は 見あたらない。なにより滅多に人の写真を見ることなどないので、写真家・カメラマンから 影響など受けようもないのが実際のところなのだ。 そんなわけで、広重や北斎になど遠く及ばないにしても、現代の墨摺絵師を標榜する僕と しては、年格好が似合うようになったら雅号の一つでも欲しいものだな思っていた。そこで、 どうせなら号としても戒名としても、万が一出家することにでもなったら法名としても使える ような便利な名前を考えてくれと頼んでいたというわけだ。 もちろん江戸時代みたいに実生活の中で使うことなどありえないし(区役所で通り名を書い ても「馬鹿か、コイツは」と思われるのがオチだ)、現実にはハンドルに使うぐらいでしかない だろうが、何よりあちらこちらを飽きもせずフラフラと歩き回る僕のことを見透かしたような 「歩周」という名前が今は妙に気に入っている。 (40年前、60歳で他界した父方の祖父の遺影。僕が呑まないのはこの人のDNAが あるからこそだ)
by ash1kg
| 2007-11-13 00:32
| 写真日記
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