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船上カメラマンになった私
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今年に入って初の江ノ島詣。
天気も良く、寝不足ながら気持ち良く散歩をしてきた。
今日の目的はこれまであれこれ撮ってきた中で穴が空いているような場所を拾い集めること。
いつものようにただただ撮りまくるのではなく、ゆっくり歩き、周りを見回し、反射神経よりも理屈優先で撮ることを
重視して ―― それはまるで普段使っている筋肉を逆に動かすことでストレッチをするような感じだ ―― のんびりと
撮り歩いていた。

網を繕っていた漁師さんに許可をもらい、観光客はなかなか入ってこない江ノ島の漁師さんの船着き場でネコと
遊び、写真を何枚か撮り、灯台の方へ移動しようかと思ったとき、フェンスの向こう側にいた初老のヨットマンから
声を掛けられた。

「よければおいでよ」

とあつらえられたテーブルに載ったコーヒーポットを指さされ、僕は外周をぐるっと回って、ハーバーの中へ入って
行った(僕にしては考えられないぐらい珍しいことだ)。

江ノ島のヨットハーバーの前は何度も通り過ぎているけれど、中に入るのは初めてである。
僕は図々しく奥の奥まで入り込み、Kさんの所有するヨットの前で他のヨット仲間の方達とともにコーヒーとフォア
ローゼスを相伴にあずかった。
ヨットを持っているぐらいだからそれなりにリッチなのだろうが、彼らの話は気持ち良いぐらいあっちこっちに飛び、
そのたびに屈託のない大きな笑い声が響いた。

「お礼にもならないですけど、モノクロで良ければ4人揃ってるところを撮りますよ」
その場で僕の出来ることと言ったら写真を撮ることぐらいだったので、まあ記念写真ぐらいのつもりで撮るのも
良いなと思って、Kさんにそう言ったら、そりゃ良いということになり、4人のヨットマンを撮ることになった。
「せっかくだからヨットに登って撮ってくれよ」
「そりゃ良いね。ヨット乗ったことないって言ってたもんね」
「船から撮ったら、これでホントの船上カメラマンだ」
たわいないオヤジギャグも彼らのあけすけな明るさの前では思わず笑ってしまい、僕はおぼつかない足取りで
脚立の上に登っていった。

「良かったらここのカメラマンになってよ」

ヨットの下にいるKさんが言う。
ヨットに同乗し、レースや練習を撮るカメラマンが江ノ島にはいないのだという。
「葉山にはいるのに、うちにはいないってのも悔しくてさー」
「ヨットは乗り放題、写真は撮り放題だよ」

人の3倍も4倍も泳げるくせに船にはからっきし弱い僕には魅力と恐怖が半ばするお誘いである。
しかもクルーザーとは違ってヨットでは波をかぶり放題である。
ヨットに乗るたびにカメラがずぶ濡れじゃああねえ、と思いつつ「プリントを作ったら届けに来ますよ。そのときに
また誘って下さい」と結論を濁して僕はシャッターを切った。

「船上カメラマン、待ってるからねー」という声を背に、僕はハーバーを出て、日が傾き始めた江ノ島を後にした。
なかなか面白い出会いだった。
by ash1kg | 2011-03-07 01:34 | 写真日記
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