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写真洗浄に行ってきました
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震災後、それほど時間が過ぎないころから気になっていた津波に飲み込まれた写真の洗浄ボランティアに、7ヶ月経ってようやく行ってきた。
震災直後は被災地のあまりの惨状に「自分も何かしなければ」という半ば強迫観念のような気持ちだったが、半年以上が過ぎ、今回はかなり気持ちもかなり落ち着いた状態で、当時のような切迫感よりも、津波に洗われた写真がどうなるものなのか実際に自分の目で見なければわからないという気持ちがしっかりと混ざっていた。

かくして説明を受け、写真を洗浄するに至ったのだが、どさっと置かれたアルバムや写真の状態は思っていた以上に酷いものだった。
泥がこびりつき、写真のゼラチン質はバクテリアに食い荒らされ、バクテリアが発生させた腐臭がマスク越しにもわかるほどに漂う。写真を洗浄する大きなバットの水はあっという間に中が見えないほどに汚れ、その汚れた水がまたヘドロに似た腐敗臭を出す。洗浄を行った部屋の中はなんとも言えない臭気で満たされる(部屋に居られなくなるほどの刺激臭ではないが、かなり不愉快な臭いだ)。

写真はどうだったか。
ナカバヤシやコクヨの貼り込むタイプのアルバム ―― 一般に「フエルアルバム」と呼ばれる類のやつだ ―― は酷いものだった。
台紙が吸い込んだ海水を留め、表面のフィルムが蒸発と乾燥の邪魔をするため、海水や泥にいたバクテリアの格好の繁殖場所となる。
カバーフィルムごとカッターで切り抜き、台紙を剥ぎ取り(弱い糊で接着しているだけなので、洗浄前だと比較的簡単に剥がれる)、水の中へ。そうしてゆっくりとプリントに加水してフィルムを剥がす。
ゼラチンを食い荒らされた感色層は呆気なく水に流れ落ち、光沢のインクジェット用紙のようなただの白い紙になる。

ほんの数秒前までかろうじて像を保っていたものが一瞬にして消える。
作業のほとんどはこの虚無感との対峙だ。
まだバクテリアの浸食を許していないごく一部は水洗に耐え、像を残すが(全体に対してのごく一部ではなく、1枚のプリントに対してのごく一部だ)、およそ写真とはほど遠い「かつて写真だったもの」に成り果てる。

作業をしている間に浮かんでくるいろいろな感情はできるだけ排して手を動かし続けていたが、途中から自分がしていることは写真を保存しようとしているのか、破壊しようとしているのかわからなくなってしまった。
実際、アルバムのカバーフィルムにこびりついた汚れを濡れた雑巾できれいに拭き取ると、そこには例えバクテリアに食い荒らさされて写真のプリントとしては崩落寸前ながらも、像はかろうじて残っているのである。
僕たちがバットの水に浸し、フィルムを剥がすまでは。

写真(記録/記憶)の保全は震災直後とは全く違うフェイズに入っている。
まだ海水に浸かってから日が浅い当時ならば多くの写真を救出することができただろうが、これだけ浸食が進んでしまった今となっては、写真を水で洗ってしまうことはかろうじて像を留めてきたものを壊してしまう作業になってしまっている。
本当は水になど浸さず、汚れを拭いたらデジタルカメラできちんと複写するなり、スキャナーで取り込んでデータ化する方が正しい。だがそうするにはあまりに資金に乏しく、設備は足りず、組織は脆弱で、しかも処置すべき写真の量は多い。
ジレンマである。

未曾有の震災に津波、写真がこれほど酷いダメージを受けたのは史上初めてのことであろうと思う。
誰も正しい方法を知らないまま手探りで保全をしていくことが必要な状況だし、大半のプリントから像が消えて無くなるとしてもオリジナルのペーパーで戻すことに意味があるのなら僕は可能な限りの強力をするが、時間が経過してしまった今となっては、震災直後と同様の作業することは賢明な選択ではないと思う。
資金、設備、場所、人員という壁が幾重にも立ちはだかっていたとしても、だ。

まともなライティングなどないまま、洗浄で像が流れてしまいそうなプリントはマクロモードにしたコンデジで撮られ、破壊されるプリントの代替品が作られる(コストの関係で1冊のアルバムについて何枚かという制約付きで)。
かくして僕の手の中で何十枚もの写真が文字通り水泡に帰していった。
小さなプリンターから出されたホワイトバランスも補正されないまま緑色にかぶった写真がいっそう無力感を募らせたのだった。
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by ash1kg | 2011-10-20 01:05 | 写真日記
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