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マイケル・ケンナの「in France」を見に有楽町のBLDギャラリーに行って来た。 人の写真をそれほど熱心に見ることのない僕が写真展の初日に行くなんて希有なことだ。 タネを明かせば、通りがかったのがたまたま初日というだけのことで、マイケル・ケンナの熱心なファンというわけではない。 好き嫌いは別にしてもケンナの写真は美しいとは思うし、見て損になるわけでもない。何よりあの美しさの根源とはいったいなんなのかを確かめるにはプリントを見るのが一番。 というわけで平日で貸し切り状態の中、老眼鏡をかけたり外したりを繰り返しながら、じっくりとプリントを見てきた。 「長時間露光」はマイケル・ケンナの代名詞のようでもあり、真似をするファンも多い。 確かにできあがった作品を観れば真似をしたくなるのも頷ける。美しい。 あの作品を生み出すための要素はロケーション、構図、タイミング、どれもが揃いつつ、その場所・光景がケンナ自身の美意識にそぐわなければならないわけで、どこでもいつでもできるというモノではない。 でもそれは実は表面的なことで、作品を作るいちばんの力は前述の要素を乗せる土台、つまり技術を持っていることなのだと思う。 展示されていた写真のどれをみてもシャドーは潰れず、重要な部分のハイライトは飛ばず、しかもピントはこれ以上ないほど入っている。 長時間露光をしていながらここまで露出をコントロールできるというのは、やはり蓄積された経験によるものなのだろうが、それにしてもハイライトをちょっとでも抑えたらシャドーが潰れるというギリギリのところでシャッターを閉じている。長時間露光ゆえに多少の余裕はあるにしても、適正なゾーンですべて収めるというのはとんでもなく難しい。 表面的にはものすごく整った構図で受け入れやすい写真であることは間違いないが、その向こう側にある技術の高さを想像できたとしたら、「好き!」という一言でまとめてしまうのがいかに乱暴なことか判ると思う。 写真が芸術であるかどうかはさておくとしても、土台にあるのは「科学」だ。 フィルムの感光も光の回折も現像~プリントのケミカルもすべて。「感覚」や「センス」が乗っかるのは科学という土台の上だ。 ダルマ落としよろしくその土台をすっ飛ばして感覚やらセンスに寄りかかっている写真はマンションのモデルルームや食品サンプルのように、ホンモノになることは永久にない(それ自体が「芸術」になることはあるだろう。恐らくアートというのはそういうものだ)。 長時間露光は撮影手法の一つであるし、練習すれば誰もが習得できる。 だがケンナがケンナであるのは、彼が1枚の写真を創り出すために必要な技術を高いレベルでことごとく手にしている上に、彼自身が持っている美意識/センスが乗っているからだろう。 ケンナのファンができあがったプリントを見て真似したくなる気持ちはものすごく判るけれど、残念ながらそこから作られるのは劣化コピーでしかない。難しいところだ。 表面的な美しさを味わい、楽しみつつ、制作プロセスの中で随所に発揮された技術の高さにおののきつつギャラリーをあとにした。 ※ケンナが自分でプリント作業をしているのか、指示を出してプリンターが焼いているのかは知りません。 でもあのプリントが焼けるように撮影をするというのも、手間も技術もいることに間違いありません。 (マイケル・ケンナ「in France」 BLDギャラリー(有楽町) 6月3日(水)まで)
by ash1kg
| 2012-05-17 11:25
| 写真展感想
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