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かつて暮らした町で
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父親の葬儀で中断していた虫歯の治療を再開。
麻酔のおかげで夕飯を食べる気にもならないし、しばらく散歩して、夕飯がわりにアイスラテでも飲んで帰ろうかと、歯医者を出てから近くをウロウロしていた。

僕が通っている歯医者は旗の台にある。間も無く引っ越す住まいからは歩いて15分ほどの距離だ。
旗の台から荏原町に続く商店街は取り立てて面白いということもないのだけれど、人も店も生活感に溢れかえっていて、なんだか落ち着く。

今からもう20年以上前、結婚をして最初に住んだのがこの町の近くだった。
住所は大田区だったけれど、品川区との区界付近で、5分も歩けば品川区に入るような場所だった。住まいの近辺には生活を支えるだけのスーパーなどはなく、歩いて10分ほどの荏原町の商店街で日々の買い物をしていた。若くて、愚かで、経済的な余裕もなく、トラブルだけが大きく立ちはだかり、あまり良い思い出はないはずなのに、今となってはそれすら懐かしく感じるのだから面白いものだ。

かつての荏原町の駅舎は木造で、ペンキを塗っただけの粗末なものだったが、近くを走っている都営地下鉄の寂れた感じよりも遥かに親しみを感じられて、二人して古い木造の駅舎を妙に気に入っていた。
駅前に小さな呑み屋やら焼き鳥屋などが寄り固まっている一角がある。店は少々入れ替わったようだけれど、20年前と変わらず今も営業を続けているところもちゃんとあって、記憶を呼び起こしてくれる懐かしい場所だ。

昔からあった店のいくつかがシャッターをおろしていた。シャッターに貼られた紙には「再開発のため閉店」とか「休業」と書かれている。近くの煙草屋で聞いてみると17階建てのビルが建つのだという。
決して広くはない敷地にそんなに高い建物が建つのか?と不思議にも思いつつ、周りの佇まいとはあまりに不釣り合いなその建物を、僕はどうしても想像することができなかった。

町は生き物だから時間とともに変化していく。それは仕方ないと思う。いずれは不釣り合いな建物のある風景すらその町の一部になっていくのだろう。だが、かつての様子を記憶している僕にはいつまでも違和感の残る風景のままであり続ける気がする。
それはすなわち、かつてこの町に住み、いまは住んでいないことの証明でもある。
by ash1kg | 2013-10-09 00:45 | 写真日記
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影と光、記憶と個人的な記録
by ash1kg
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