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それは黒い真珠のような
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両親を訪ねた帰り、大丸ミュージアムで開かれている写真展『20世紀の巨匠たち』を見てきた。
久しぶりにウィリアム・クラインとユージン・スミスのプリントを見たくて足を運んだのだが、会場
は思ったより混んでいて、それぞれのプリントの前にゆっくり立って見ることもままならないよう
な状況だった(最終日前日に行く方が悪い)。




ユージン・スミスの写真を見るたびに、いつも高校時代の友人を思い出す。
今になって考えればずいぶんと背伸びをした話なのだが、友人であるSはユージン・スミスの
写真の黒の黒さに魅せられて、ひたすらユージン・スミス的黒さを出すべく、我々が隠れて吸う
煙草の煙で充満した狭い暗室の中で写真を焼き続けていた。雀荘と喫茶店が部室同然だった
写真部にあって、Sだけは例外中の例外だ。

印刷に使うわけでもないのにフェロ掛けをし、ドライダウンする分まで想像しての作業を繰り返し、
努力の甲斐あって彼は黒い黒を手に入れ、口は出しても金は出さないOBからも「アイツの黒は
黒真珠のようだ」と言われるようになった。惜しむらくは撮る写真がどれも限りなくつまらなく、
写真自体を褒められることはなかった。少なくとも高校の3年間のあいだは。

20年経ってジャック・スパロウの船の名前が「ブラックパール」だと知ったとき、ジョニー・デップの
顔とSが重なり、可笑しくて仕方がなかった。そしてヤツは今でも写真を撮っているのだろうかなあ
と思った。デジタル全盛のいまでもあの黒さは健在なのだろうか、と。

僕はどうだったかというと、「オマエの写真は砂嵐のようだ」と言われ、写真もプリント作業も褒め
られたことはない。褒められたくてやってたわけじゃないし、自分でも見ても砂嵐そのものだった
のだから文句を言う筋合いでもない。でも最近はちょっとだけあの黒さに憧れるところもある。


(京橋 17:00)
by ash1kg | 2008-04-20 23:48 | 寫眞昔日談
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影と光、記憶と個人的な記録
by ash1kg
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